弁護士の飯森和彦さんより、書評を頂きました。

「多くの人の手から手へ」

 

 世の中、大事なテーマだと分かっていても、なかなか興味の持てないものがある。だから、いつまでたっても分からない。誰でもそんなものが一つや二つはあるでしょう。私の場合、「税金」「パソコン」「痛風」が、まさにそれです。それでも、字数も少なくて、ふんだんに絵もあって、面白そうな本なら、さすがの私も、読んでみるか、となるでしょう。

「りぼん・ぷろじぇくと」の「戦争のつくりかた」はそんな絵本です。テーマは、先日国会で成立した国民保護法や、憲法改正、そして戦争と平和など。巨大岩石級のテーマです。でも、実質わずかの16ページ、みょうに雰囲気がよく伝わる絵もあって、ちょっと気になる絵本に仕上がっています。そして、今回、その改訂版が出ました。

 今回の改訂版は、初版とくらべると、表紙の絵が手から足跡になったり、文章表現が少し変わったり、末尾の条文などの引用欄が更新されたりしています。でも、作者たちが言いたいことに変わりはありません。「戦争しない」と決めたはずの日本が、国民保護法や憲法改正などによって、次第に「戦争できる国」になって行くさまを描き、それを警告しています。作者たちは、この絵本に描かれた一つの道を進むなら、日本は、自由は削られ、民主主義は弱まり、真っ暗な世の中へ。そして、多くの人が傷つき、死に追いやられ、ぞっとする世の中になって行く、と訴えます。

 「それは、万が一の戦争の時のこと。取るに足らない心配さ」「それに、国を守るんだから、少しは仕方ないよ」。この絵本を読んで、そういう人も多いでしょう。でも、それはどうでしょうか。

国民保護法や憲法改正などを今の政治の流れの中に置くと、見えてくるものがあります。憲法9条違反の疑いが消えないまま、次第に大きくなり、海の向こうの戦場にも出て行き、これからは多国籍軍にも参加するという自衛隊。日本政府と自衛隊にとてつもない影響力をあたえ続けるアメリカ政府と、そのアメリカ政府によるアフガニスタンやイラクでの国際法違反の戦争など。このような事実を追いかけてゆくと、日本や私たち日本に住む人々が、不正義の戦争に巻き込まれ、協力させられる危険性は、決して小さくはないのです。「万が一」でも「仕方ない」でもない。もしかしたら、「少し先」に「許されない」ことが本当に始まるかも知れないのです。

 でも、戦争や有事体制は、地震や台風などの天災とは違います。政府と国民が一体となって巻き起こすものです。だからまた、私たち国民は不正義の戦争に巻き込まれるのを止める力も持っています。この絵本は最後にもう一つの道にも触れています。

  

    「 わたしたちは、未来をつくりだすことができます。

   戦争をしない方法を、えらびとることも。 」

 

 この道を進むならば、戦争もぞっとする世の中も、本当の意味で、取るに足らない心配となるでしょう。そして、アジアや世界から戦争をなくす道も、見えてくるでしょう。

 この絵本はこのようなことを私たちに語りかけています。だから、色んな人に読んで欲しい。そして、隣の人と話し合って欲しい。多くの人の手から手へ、この小さな絵本が広がってゆくことを、私は心から期待するのです。

(2004年6月17日)