ノンフィクション作家・高瀬毅さんより書評をいただきました

         「あなたにはどんな絵が見えるのだろう」

                            

平易に子ども向けに書かれたかに見える童話は、残虐で不条理なことが書かれていたり、深層に不完全で身勝手な人間への洞察があったりする。童話は恐ろしいと言われる所以だ。

 

絵本風の体裁をとった『新・戦争のつくりかた』も怖い本である。10年前に忍び寄る不穏な空気を察知した人たちが、いま日本で何が起きようとしているのかを、具体的に調べ、「戦争への準備が進められていることを」わかりやすい文章とイラストで表現した。有事を想定して作られた法律を巻末にまとめることによって、「絵本」の話が、ただの思い込みや作り話ではないことを裏付けた。

 

計12万部あまりが売れたその本から10年。2014年9月11日にマガジンハウスから出版された改訂版は、さらに巻末の資料を充実させている。戦後の日本国憲法施行(1947年)から2014年まで、安全保障関連のどんな法律が、いつ成立してきたのかが一目瞭然にわかる年表がついた。東西冷戦終結後、PKO(国連平和維持活動)を端緒として、自衛隊が世界のどの地域で、どのような活動に従事している(きた)かを、世界地図の中に落とし込んだ。そんな地図は初めてみた。

 

そのことによって、くっきりと見えてくるものがある。すでに憲法の内実は、形骸化しつつあるということだ。安倍政権の強引な手法ばかりが目立つが、それは、この四半世紀という時間の中で、タネが撒かれ、根を張り、育ってきた末の、一つの大きな結実だということなのだ。それが実によくわかる。そして、それは自然にそうなったのではなく、「誰か」が、「意図をもって」進めてきたことなのだ。だから「戦争のつくられかた」ではなく「戦争のつくりかた」なのである。

 

「戦争のことは、ほんの何人かの政府の人たちで決めていい、というきまりを作ります」というのは、特定秘密保護法のことではないのか。「世界の平和を守るため、戦争で困っている人びとを助けるため、と言って」出て行こうとすることを、このあいだ閣議決定したよね。「ううむ。ううむ」。とページをめくりながらこの10年の「有事」へ向けた更なる積み重ねと本の内容を重ね合わせてしまう。

 

「一本の法律が、大きな絵を描くためのジグソーパズルのピースに思えた」。制作メンバーの一人はそう言う。その絵とは何なのか。あなたも、この本を開くことで、その絵が見えるかもしれない。そして、あなただけにしかわからないことに気がつくかもしれない。

 

                    書評 高瀬毅(ノンフィクション作家)

                            2014年9月13日